遺言
あなたは、「遺言」と聞いてどのようなイメージをお持ちでしょうか。もしかすると、
「まだ遺言書を作るのは早い」
「財産は特にないから書く必要はない」
とお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、今遺言書作成のご依頼が急増しています。
「家族への思いを伝えて絆を深めたい」
「自分の死後に相続人が苦労しないようにしたい」
遺産の帰属を決めるという形式的なものを超えて、遺族への思いを込めるものとしても注目されているのです。
以下、実際にご相談いただいた事例をもとに、遺言書の持つ価値についてお伝え致します。
Q1. 私たち夫婦は子供がいません。夫が亡くなった場合、妻である私が相続できますから、遺言書くを作る必要はないですよね?
いえいえ、子供がいない場合に夫が亡くなった場合には、妻以外に夫の両親が相続人になります。夫の両親が亡くなっている場合には、妻と夫の兄弟が相続人です。
もし、夫の両親または兄弟に「遺産は奥様に譲ります」と言われた場合でも、遺産分割協議書は必要ですし、この遺産分割協議書には実印を押印してもらってさらに印鑑証明書を取得してもらう必要があります。
これって結構大変な手間ではないですか?
遺言書を作成しておくことで、御自身が亡くなった後のパートナーの生活を守ることができます。
Q2. 妻はすでに亡くなり、子供が3人います。遺産は家だけですが、子供たちはもう立派な大人ですし、遺言書がなくても大丈夫かと思うのですが・・・
相続財産が家などのように物理的に分割できない場合には、子供たちが遺産分割協議をすることになります。
兄弟間で誰が相続するかでもめてしまう、もめなくてもとても気疲れしてしまうというご相談をよくいただきます。それは、子供なら誰しも親から自分が愛されたということを信じたいからではないでしょうか。
たとえ家を相続させられない子供のことも、親として愛していることには変わりないはずです。そのような思いを付言事項として遺言書にしたためて、家を相続しない子供にも理解してもらえるようなメッセージを残してはいかがでしょうか。
Q3. 私たちは夫婦と小さい子供2人の4人家族です。夫が亡くなった場合、子供はまだ小さいですから、当然妻であるが夫名義の不動産を相続できますよね?
もし、夫が亡くなった場合には、妻であるあなたと子供2人が相続人になり、3人で遺産分割協議をしなければ妻名義の登記をすることができません。そして、今回のように未成年者の相続人が遺産分割をする場合、家庭裁判所で子供1人につき1人の特別代理人を選任して、家庭裁判所に申立をしなければなりません。特別代理人は、子供の代わりに遺産分割協議書に押印捺印をしたり戸籍などの公的書類を準備する必要があります。
しかし、事前に遺言書を作成しておけば、特別代理人選任など複雑な手続きも必要ありません。また、遺言書の付言事項として子供たちへの未来のメッセージを記すこともできますね。
遺言書で出来ること
1.相続分の指定
相続分の指定は、法律で決められた相続分よりも優先します。「長男に2分の1を相続させる」といったように、具体的な割合を明確にすることができます。
ただし、相続分の指定によって負債も相続されるので注意が必要です。
2.遺産分割方法の指定
どの遺産を誰が相続するのかといった具体的な遺産分割の方法を決定することを言います。「家は長男に、預貯金は次男に相続する」「不動産は妻に相続させる。その代わりに妻は長男に1000万円を支払う」「不動産を売却して現金化し、売却代金を妻と子供で相続する」といったように、定めることができます。
3.遺贈
遺贈とは、遺言書によって遺産を譲ることです。相続分の指定、遺産分割方法の指定などと異なり、遺贈の相手方は、相続人に限られず、第3者や法人に遺産を与えることもできます。
また、「財産を与える代わりにパートナーの面倒をみてほしい、愛犬の世話をしてほしい」といった財産を与える代わりに一定の義務を負わせることもできます(負担付遺贈といいます)
4.後見人、後見監督人の指定
親権者が死亡し、子供だけが残される場合には、親権者の代わりに未成年後見人の選任が必要になります。未成年後見人は、親権者の親族等が家庭裁判所に選任の申立をして定める必要がありますが、遺言によって事前に未成年後見人を定めることにより、安心して子供のことを任せられる人を未成年後見人に指定することができます。
ただし、遺言書で未成年後見人に指定された人は、就任を拒否することもできるので、事前に指定される方の未成年後見人への就任の了解をとっておくことが望ましいです。
5.遺言による信託の設定
遺言による信託とは、遺言者の財産を信託会社に移転し、遺産を運用・管理してもらうことです。障害者や子供など、管理能力に乏しい方ものが近い将来相続人になる可能性がある場合、信託銀行に財産を委託し、その運用・管理によって得られた収益を相続人に支給することによって、遺言者の死後も相続人が安定した生活を送ることができます。
6.付言事項
遺言のでは遺産の帰属以外に、メッセージを遺族に残すことができます。
具体的には、特定の相続人に遺産を相続させることにした理由や、葬式の方法、生前に伝えたくても伝えられなかった思いなどです。これらは法律上相続人を拘束するものではありませんが、このようなメッセージは相続人の方々の心に届き尊重されるでしょう。遺留分減殺請求などによる争いを防止することも期待できます。
付言事項によりメッセージを残すことは、円満な相続を実現するために大切なことであると言えるでしょう。
7.遺言執行者の指定
遺言執行者とは、遺言者が死亡した場合に遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことです。遺言執行者は、遺言で指定するか家庭裁判所により選任してもらいます。
遺言執行者が指定されている場合には、相続人は勝手に遺産の処分をすることができなくなります。
8.祭祀承継者の指定
お墓や仏壇などの祭祀用具を受け継ぐ人のことを言います。
遺言書に指定がない場合には、慣習に従うことになり、それでも定まらない場合には、家庭裁判所に審判を申し立てて決定されます。
祭祀承継者は、仏壇やお墓について、他の親族等の同意を得ることなく決定することができます。祭祀承継者を定める場合には、事前に親族や指定する人の同意を得ておくと、トラブルを防ぐことができるでしょう。